音声は全部通った。字幕は消えていた——「完了」の定義を間違えた日
2026-08-05、無人で回している動画工場で、仕上がっていた字幕データが消えた。
音声の作り直しは全件が正常終了し、機械が出した報告は「完了」だった。
工程は二段あり、二段目は一度も回っていなかった。
何が起きたか
読み上げ辞書の修正を反映させるため、制作中の案件をまとめて作り直した。音声の生成は全件が正常に終了している。ところが編集ソフトに読ませる字幕データが、作り直した案件から丸ごと無くなっていた。発覚したのは、人間が編集ソフトを開いて「字幕が作られていない」と指摘したときだ。
原因は、噛み合わせの穴だった。音声を作り直すコマンドが出力するのは、音声ファイルと字幕テキストまで。編集ソフト用の字幕データを作るのは別のコマンドで、しかもそれは「新規のみ・既存はスキップ」の設計になっていた。作り直しで出力フォルダの中身が入れ替わると、古い字幕データは残らず、新しい字幕データも作られない。どちらのコマンドも、単体では設計どおりに動いている。
なぜ気づけなかったか
作り直しの完了報告で確認したのが、一段目の終了コードだけだったからだ。工程は音声と字幕の二段なのに、一段目が全件成功したという事実をもって「完了」と報告した。しかも「字幕テキストはあるが字幕データが無い」案件を一覧に出す仕組みは、最初から用意してあった。作り直しの後に、それを回していない。
失敗はぜんぶ、AIの能力ではなく、人間の設計の穴だった。
工程分解表——動画一本が仕上がるまで
| 工程 | 担い手 | 無人化度 |
|---|---|---|
| 台本の生成 | AI社員(毎朝04:00起動) | 完全無人 |
| 音声の生成 | 音声エンジン | 完全無人 |
| 字幕テキストの生成 | 同上の工程内 | 完全無人 |
| 編集ソフト用の字幕データ生成 | 別コマンド(新規のみ実行) | 半自動 |
| 最終成果物の欠落確認 | 状態一覧コマンド+人間の判 | 検品のみ人間 |
| 完了の定義を決める | 人間 | 人間必須 |
事故は、この表の四行目と五行目の間で起きた。四行目が別コマンドに分かれていることを、五行目の確認手順に書いていなかった。
難しい側——AIは「回っていない工程」に気づけない
一般論として、AIは渡された工程を最後まで実行し、結果を正直に返す。返せるのは実行した工程の結果だけだ。実行を指示されなかった工程については、成功も失敗も報告しようがない。
うちの工場は毎朝03:00に講演コンテンツの制作工場が台本一式6点を、毎朝04:00に動画工場が長尺2本を無人で仕上げる。人間が触らない前提で組んである以上、「何をもって完了とするか」を書き忘れた分だけ、そこが穴になる。工程の境目は、人間が定義した形でしか存在しない。
直したこと
字幕データを全案件ぶん作り直し、欠落ゼロ・規格違反ゼロを確認した。そのうえで、作り直しの手順書に「音声の再生成の後は、必ず字幕データ生成まで回す」と明文化した。
本質的な修正は手順書ではない。完了の判定を、途中工程の終了コードから最終成果物の存在確認へ移したことだ。多段のパイプラインは、最終成果物で確認する。
導入までの手順
- 工程を最終成果物から逆向きに書き出し、コマンドが分かれている境目を洗い出す
- 完了の判定を最終成果物の存在確認に置く(途中工程の終了コードを完了と呼ばない)
- 欠落を一覧で出す仕組みを作り、作り直し・再実行の手順に組み込む
この線は、会社ごとに引き直せる。どこまでを機械の「完了」と呼び、どこから人間が確かめるのか——その線引きは実装設計図で一緒に引けるし、まず話だけ聞きたいなら無料相談から始められる。